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ワクチンと病気について

医療従事者のためのワクチン

医療従事者のためのワクチン

  • 2023.05.22

ワクチンの接種間隔について  
参考文献より引用します(Plotkin 6th ed)。不活化ワクチンと不活化ワクチンの間隔は、両者を同時接種でもよいし、両者をどのような間隔で空けてもよいです。不活化と生ワクチンの場合も同時でもよいし、どの間隔で空けてもよいです。生ワクチンと生ワクチンの同時接種も可能です。ただし、接種間隔を空けるなら4週間は空けます。 また、接種間隔を短くするのは一般によくありませんが、間隔を長くすることは効果を落とさないと一般的には考えられています。

[1]B型肝炎ワクチン
【対象】
A.   すべて
の医療従事者に推奨します。
ただし、   
B.より優先順位が高いのは、患者の体液、血液に曝露を受ける可能性が高い職種、すなわち医師、歯科医師、看護師、検査技師などです。  
とはいえ、例えば清掃業務担当者や洗濯・クリーニング従事者などもゴミ箱や衣服などから血液・体液曝露を受ける可能性があります。理想的には全ての医療従事者がB型肝炎ワクチン接種を受けるべきです。「優先順位が高い」は、「それ以外は無視しても良い」という意味ではなく、あくまでも時間予算的に順番を決めてやることであり、ゴールそのものを矮小化させてはなりません。

【接種不適当者】
1.既感染者でHBs抗体陽性のひと。
2.B型肝炎ワクチンにアレルギーなど強い副反応を示したひと。  
熱性疾患など急性疾患に罹患している場合は回復を待って接種する方が良いです。妊婦、授乳時も禁忌ではありません。なんらかの免疫抑制があっても禁忌ではなく、むしろ強く推奨されます。

【運用】
1.0,1,6か月で3回筋注します。
2.事前の抗体検査は必須ではありません。肝炎ウイルス感染の疑いがあるひとには行ってもよいです。
3.在庫の関係で異なるメーカーのワクチンを混ぜたスケジュールでも問題ありません。具体的には、ビームゲン®のあとにヘプタバック®を接種する、といった方法です。
4.3回の接種後1,2か月後にHBs抗体を測定する。≧10mIU/mLであれば、免疫があると判断します。その後の抗体検査は必要ありません(その後抗体価が下がってきても免疫能そのものは保持されます)。
5.抗体検査が陰性ならもう3回(1シリーズ)追加します。同様にその後抗体検査を行います
6.これで検査が陰性ならノンレスポンダー(ワクチンによって抗体を獲得できないひと)と判断します。その場合はなんらかの免疫抑制や慢性B型肝炎ウイルス感染などの除外のために専門家を受診するのも一法です。また、血液・体液曝露の多い職種の場合は上司などに相談して職務上の配慮をすべきかもしれません。

[2]麻しん、風しんワクチン
【対象】
すべての医療従事者に推奨します。
ただし、病歴や抗体検査で既感染と分かっているものには不要です。

【接種不適当者】
免疫抑制者、妊婦には一般に禁忌です(生ワクチンであるため)。接種後2か月は妊娠を避けるべきですが、仮に妊娠していたとしても胎児への影響は小さいと考えられています(風疹ウイルスと風疹ワクチンは異なる!)。要するに「念のため」です。接種後妊娠が判明した場合は専門家に相談してください。
アナフィラキシーなど強い副反応の既往があれば禁忌です。
発熱など急性熱性疾患がある場合は回復まで延期します。

【運用】
1.0そして1か月の2回皮下注射で接種します。麻しん、風しん両者を防御するときは麻しん風しん混合(MR)ワクチンを用います。麻しん単体では麻しんワクチンを用います。風しん単体の場合は2回ではなく1回でもよいとされています。
2.ウイルス曝露後のワクチン接種も効果がある可能性があります。
3.1回接種の既往があり、2回目の接種がない場合は1回だけ接種します。
4.接種や罹患の不明な場合は、原則2回接種します。抗体価の測定は必要ありません。
5.接種後の抗体価測定も必要ありません。
6.感染歴を証明する記録はないが感染既往が予想される場合に限り、抗体陽性をもって感染ありと判断することも可能です。ただし、感染既往がある方にワクチン接種を行っても差し支えはありません。接種前の抗体価「陽性」の基準ははっきりしませんが、日本環境感染学会によると麻しんではEIA法IgG16.0以上、PA法1:256以上、中和法1:8以上で陽性とされます。風しんではHI法で1:32以上、EIA法IgG8.0以上で陽性とします。

[3]水痘ワクチン
【対象】
すべての医療従事者に推奨します。
ただし、病歴や抗体検査で既感染と分かっているひとには不要です。

【接種不適当者】
免疫抑制者、妊婦には一般に禁忌です(生ワクチンであるため)。接種後2か月は妊娠を避けるべきですが、仮に妊娠していたとしても胎児への影響は小さいと考えられています。要するに「念のため」です。接種後妊娠が判明した場合は専門家に相談してください。
アナフィラキシーなど強い副反応の既往があれば禁忌です。
発熱など急性熱性疾患がある場合は回復まで延期します。

【運用】
1. 0、1か月の2回皮下注で接種します。
2.ウイルス曝露後のワクチン接種も効果がある可能性があります。
3.1回接種の既往があり、2回目の接種がない場合は1回だけ接種します。
4.接種や罹患の不明な場合は、原則2回接種します。抗体価の測定は必要ありません。
5.接種後の抗体価測定も必要ありません。
6.感染歴を証明する記録はないが感染既往が予想される場合に限り、抗体陽性をもって感染ありと判断することも可能です。ただし、感染既往がある方にワクチン接種を行っても差し支えはありません。接種前の抗体価「陽性」の基準ははっきりしませんが、日本環境感染学会によると、EIA法IgG4.0以上、IAHA法1:4以上、中和法1:4以上で陽性とみなします。

[4]おたふくかぜワクチン(流行性耳下腺炎)
【対象】
すべての医療従事者に推奨します。
ただし、病歴や抗体検査で既感染と分かっているひとには不要です。

【接種不適当者】
免疫抑制者、妊婦には一般に禁忌です(生ワクチンであるため)。接種後2か月は妊娠を避けるべきですが、仮に妊娠していたとしても胎児への影響は小さいと考えられています。要するに「念のため」です。接種後妊娠が判明した場合は専門家に相談してください。
アナフィラキシーなど強い副反応の既往があれば禁忌です。
発熱など急性熱性疾患がある場合は回復まで延期します。

【運用】
1. 1か月以上の間隔をあけて2回皮下注射で接種します。最近、3回接種が必要という意見もあり、アウトブレイク時に考慮します5,6)。
2.ウイルス曝露後のワクチン接種も効果がある可能性があります。
3.1回接種の既往があり、2回目の接種がない場合は1回だけ接種します。
4.接種や罹患の不明な場合は、原則2回接種します。抗体価の測定は必要ありません。
5.接種後の抗体価測定も必要ありません。
6.感染歴を証明する記録はないが感染既往が予想される場合に限り、抗体陽性をもって感染ありと判断することも可能です。ただし、感染既往がある方にワクチン接種を行っても差し支えはありません。接種前の抗体価「陽性」の基準ははっきりしませんが、日本環境感染学会のガイドライン2)によるとEIA法IgG陽性を根拠とします。

[5]インフルエンザワクチン
【対象】
すべての医療従事者に推奨します。

【接種不適当者】 
卵アレルギーの既往は禁忌ではありません。妊婦や免疫抑制者でも接種可能です。接種禁忌者はまれです。

【運用】
毎年秋にインフルエンザワクチンを1回、接種します。2回接種は必要ありません(生まれて初めてインフルエンザワクチン接種する場合を例外とします)。

[6]破傷風トキソイド
【対象】
すべての医療従事者に推奨します。

【接種不適当者】
アナフィラキシーのような重度のアレルギー反応のあるひと。
妊婦、免疫抑制者も禁忌ではありません。

【運用】
10年おきに破傷風トキソイドを1回筋肉注射で接種します。
職員の接種記録は医療機関も保管しておきましょう。

参考文献・サイト
1)Plotkin SA et al Ed. Vaccines 6th ed. Elsevier. 2013.

2)日本環境感染学会「医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版」

3)Hepatitis B and health care workers.| CDC .

4)Recommended Vaccines for Healthcare Workers | CDC .

5)Cardemil CV, et al. Effectiveness of a Third Dose of MMR Vaccine for Mumps Outbreak Control. NEJM. 2017 Sep;377(10):947–56.

6)Third Dose of MMR Vaccine for Mumps Control. NEJM. 2017 Dec;377(24):2402–3.

7)CDC. Flu Vaccine and People with Egg Allergies| CDC .

注1.
ここでの「医療従事者」は医療機関に勤務する全ての人を対象にしています。医療行為を行うものとは限りません。よって、事務受付、清掃、売店など常勤、非常勤、業務委託を受けるもの、ボランティアを問わず、該当します。特別な医療職に限定する場合はその旨、記載します。

注2.
本推奨は医学の専門的な見地からの推奨であり、必ずしも医薬品添付文書に沿ったものではありません。学問的なデータや理路を制度に優先させており、制度は学理に従うべきだとの考えからです。具体的には、筋肉内注射(筋注)すべきワクチンは筋注すべき(たとえ添付文書上、皮下注射と記載されていても)とし、同時接種も科学的妥当性の高い推奨を行いました。

注3.
本推奨はコスト効果面の吟味を行っていません。予算上推奨どおりにできない場合は、優先順位を決めて段階的に実施されるとよいです。なお、本稿で取り上げる予防接種は優先順位の高いものから載せています。