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ワクチンのおはなし

ワクチンについて

混合ワクチンについて

  • 2023.05.07

混合ワクチンとは


大多数のワクチンは、液状の有効成分を注射するタイプです。この薬液が体内でヒトの免疫システムに作用すると、特定の微生物に対抗する準備ができる仕組みになっています。

混合ワクチンとは、複数のワクチン成分がひとつの薬液に入っていて、1回の注射で複数のワクチン接種と同じ効果があるものをいいます。

原理はシンプルですが、単純に薬液や成分を混合しているわけではなく、混合ワクチンは非常に高度な技術で作られています。


混合ワクチンの意義


混合ワクチンが導入されると、受診回数や針を刺す回数が減らせる、その結果として打ち忘れが減る、また複数の免疫が短時間で得られる、といったメリットがあります。医療機関にとっても、扱う種類が減れば在庫が安定し、接種ミスも減ります。メーカー側も、長期的には生産ラインが節約できるうえ販売価格上もメリットがあります。

では逆に、デメリットはあるでしょうか?免疫をつけるという本来の目的に関わる大きなデメリットはありませんが、製造が難しいことから、同じ内容のワクチンを単独で接種するよりも価格は高くなりがちです。接種スケジュールの途中で居住する国が変わると、同じ製品が入手できなかったり、必要ない成分まで接種することになるなど、融通が利かない場面があることも事実です。ただし、この必要のない成分を接種してもワクチンの効果は変わりませんし、接種済みワクチンの再接種も大きな問題は起きません。

ワクチンについて懐疑的な人たちには、混合ワクチンで一挙に多くの抗原を体内に入れると免疫が圧倒されて免疫システムが傷つく、という懸念があるようです。

しかし、もし自然の土の上で転んだら、すり傷にはワクチンの本数どころじゃない抗原が入ります。なにしろ天然の土壌1gには1,000種以上の細菌をはじめ、大量のカビや菌糸も混じっています。しかし、こんなことで免疫システムはトラブルを起こしませんね。

そもそも生まれた直後の赤ちゃんにとっては天然物でも人工物でも、文字通り触れるものすべてが新しい抗原ばかりです。

ヒトは世界と折り合いをつける準備をして産まれてきます。むしろ、抗原刺激が少ないと自己免疫疾患やアレルギーが増える、というアレルギーの衛生仮説が提唱されているほどです。たかだか数種のワクチン抗原など、まったく恐れるに足りません。


混合ワクチン と ワクチンの混合 は違います!


洗剤だって「混ぜるな危険」。シャンプーとリンスをただ混ぜてもリンスインシャンプーになりませんから、特別な技術や成分が必要なのです。

もちろん医薬品はさらに繊細ですが、ワクチンは医薬品のなかでも特殊です。工業製品というより品質保証付きのワインや日本酒に近いかも知れません。製法だけでなく、製品の最適なpH(薬液が酸性かアルカリ性か)や濃度、保存料、効果増強成分(アジュバント)までワクチン一つひとつ違います。

ある製法で完成したワクチンは、特定の接種方法で効果を確認し、その同じ方法で投与する限りにおいて効果が保証されます。つまり、製造方法や接種方法の逸脱はいっさい許されず、そうした製品や投与方法は効果がまったく保証されません。いかにデリケートか、おわかりいただけるでしょう。

こうしてみてゆくと、ワクチンの薬液を投与直前に混ぜるなど言語道断、絶対にダメだということも分かりますね。


どんな混合ワクチンがある?


ワクチンには大きく分けて、生ワクチンと不活化ワクチンがあります。混合ワクチンは、生ワクチン同士か不活化ワクチン同士で作ります。ワクチンの物質的な特性だけでなく、接種の時期やスケジュールも重ねやすいからです。実際、ワクチンの接種スケジュールには似たパターンが多いのです。


日本で採用されている混合ワクチン

  • MR:麻しん+風しんの混合ワクチン、定期接種です。

  • 3種混合:ジフテリア+破傷風+百日咳の混合ワクチン、定期接種です。

  • 2種混合:ジフテリア+破傷風の混合ワクチン、11〜13歳での定期接種です。

  • 4種混合:上記3種混合+不活化ポリオの混合ワクチン、定期接種です。

  • *2023年3月に5種混合ワクチン:上記4種混合+ヒブ(インフルエンザ菌b型)が製造販売承認を取得しました(未発売)


海外で流通している混合ワクチン(上記と同等品以外)

  • MMR:麻しん+風しん+おたふく風邪(ムンプス)
    かつて日本でも定期接種に採用されましたが副作用の問題ですぐ使用中止になりました。いま国際的に流通しているMMRは、日本で問題になったものとは型が違います。

  • MMRV:麻しん+風しん+ムンプス+水ぼうそう

  • 5種混合:3種混合+B型肝炎+ヒブ(インフルエンザ菌b型)

  • 6種混合:3種混合+不活化ポリオ+ヒブ(インフルエンザ菌b型)+B型肝炎

  • A/B肝炎:A型肝炎+B型肝炎

  • その他の渡航ワクチン:腸チフス+A型肝炎、などが有名です。


なぜ日本では使えない?


上記の6種混合などの混合ワクチンは、日本で導入されればみんな負担が軽くなりますが、今のところ具体的な計画はないようです。なぜでしょうか?

まず、ワクチン開発は設備等に巨額の費用が必要です。そのためワクチンの製法その他は特許で保護され、他メーカーとの連携を難しくしています。

また、既存のワクチン成分同士の混合ワクチンであっても、実際に医薬品として許認可を得るためには新規に治験が必要ですが、これには10年単位の時間がかかります。
(新型コロナワクチンは緊急事態でしたので例外的な速さで承認されました)

こうした事情から、特定の国に向けたワクチン開発は成立しにくく、グローバルな規模での開発製造販売が不可欠になっています。

ところが日本はこれまで、諸外国とは異なるルールでワクチン政策を運用し、また国産ワクチンを優先して採用してきました。こうした事情から、国際的に流通している混合ワクチンでも定期接種に組み込まれにくかったのです。

しかし近年はワクチンの接種間隔などの独自ルールが撤廃されるなど、諸外国と足並みを揃えやすくなってきました。より利便性が高い混合ワクチンが導入されると良いですね。